土佐清水のクエ漁は延縄漁
大物は40kgを超え漁具も大仕掛けになります。主たる漁法は釣り漁で一本釣りか、延縄漁。稀に定置網にも入ります。環境に優しい伝統漁法は、古より先人が学んだ目的とする対象魚の生態観察(何を食べ、どのように行動するか)によって確立されています。
そしてそれは、現在ある資源量を最大限に活用することでは決してなく、次の世代も同じようにその恩恵に与れる知恵を、自然の中で学ぶことを意味します。
クエは夜行性で、瀬付きの定着魚のわりに広い縄張りを持ち、大規模な岩礁地帯の大きな穴を棲家としています。食性は魚、イカ、大型甲殻類で動くもの(生き餌)へは高い活性を示します。
当然のことながら漁具も近年目覚しい発展を遂げ、最たるものは魚群探知機や根(岩礁)擦れに強い糸、軽くて丈夫、スピードも速く耐久性の向上した漁船等、漁の効率を高めるだけでなく採った魚の鮮度を保つ多くの方法も研究、開発されています。
クエ漁の魅力
漁師さんにとって、クエとは非常に魅力多い魚。その理由は価格にあります。豊漁時、また不況下でも極端な値崩れはせず6,000円/kgを割ることは無い浜値。理由は想像を絶する漁の難しさとクエの限られた資源量にあります。三木さん親子は今シーズンクエ漁に10回しか出ておらず、仕留めた総数は15匹との事でした。
クエ漁は、非常に少ないチャンスの中でプロフェッショナルの技が問われる漁師の誇りをかけた漁でもあります。
クエ延縄漁、いざ出陣
2月9日、AM5:00出船はしましたが漁場へ到着時、海は3mほどのうねりと、流れる潮が早く(潮の速さが1ノット以上になるとクエの延縄漁は成立しないようです。)延縄仕掛けを投入する事が出来ませんでした。
漁実習の代わりに、クエ漁の船上勉強会
魚群探知機により、魚場の海底の様子を見せてもらいました。私が今まで見た事の無い大規模な天然岩礁が海底に永遠と続いておりこの海の持つ、大きな可能性を確認しました。『これほどの天然漁礁はここ土佐清水と、ダイビングと磯釣りで有名な柏島の二箇所しか県下にはない』と力強く語る三木さんの息子さんに、自身が先人からうけつぐものへの誇りを感じました。関東で言う、有名な銭洲や金洲にも劣らない土佐清水の財産です。
魚礁は天然の岩礁の他、沈船や人工的にケーソンを沈めたものも多くあります。
そこに意図して魚を集める訳ですが、何故魚が集まるかというと複雑な地形により潮流の流れも変化、小魚の餌となるプランクトンや底棲生物が集まりやすい事、その小魚を捕食する更に大きな魚から身を隠す場所がある事、そして魚にとってもっとも脅威となる底引き網が引けない事などがあり、常に自然界本来の食物連鎖が維持されている場所が魚礁です。
天然魚礁の場合、特に底棲生物が付着しやすく長年の潮流に応じた地形に変化しており、
自然の利に適った形状の地形はそれぞれの魚の最適な棲家を形成。特に現在私の下に広がるそれは、大型のクエにとっても、自身を優しく包む大きな洞が点在し良い棲家のようです。
そしてこの場所は土佐清水のクエの漁場で最も潮通しの良い(潮が早い)所、つまり潮が早く漁ができる日が少ない場所でもあります。しかしそういった場所をクエは好み、その主(ぬし)たる大クエを漁師が運よく釣り上げても別のクエが何処よりか来て、すぐ同じ洞に棲みつくようです。
豪快なクエ漁、実は今まで経験をしたことの無いほど繊細な漁。
2月10日、前夜の雨も上がり変わって押寄せてきたのは日本列島をすっぽり覆うほどの大寒波。春を前にしたこの季節、天気はめまぐるしく変わり気圧の谷間では雪が降ります。南国でも2月は雪が降りやすい季節、雪が降ると土佐人は春がもうそこまで来たことを実感します。寒波の中でも土佐清水の最低気温は4度。高知市中心部よりは、4度ほど高め、
でも前日の土佐清水最低気温はなんと11度でした。
前日と同じAM5:00出船です。幸いな事に風は港より風速2m/秒ほどで、外海に出ても海は凪状態でした。
漁場にはAM6:00に到着、漁は日の出と同時に開始されます。
しかし本日も波はなくても潮が微妙に速く、第一級のポイントでは漁ができませんでした。
次の漁場でも潮が速く、結局本日は足摺岬を少し土佐湾方向に入った潮の流れの比較的弱い岩礁地帯の漁場でチャレンジしました。しかし三木さんは今シーズン1度、ここで延縄漁を行い30kgと25kgの大型クエを同時に仕留めています。
漁場では先ず、仕掛けを投入する前に、風向、風速、潮の流れを丁寧に測ります。
熟練の勘と技により、巧みに60mから80m下のポイントに思い通りに仕掛けを落としていきます。
延縄仕掛け、1鉢の構造
延縄仕掛けは漁礁となる、瀬際から瀬上にかけて複数鉢投入します。
一度投入した延縄仕掛けは、思い通りにポイントへ落下しなかってもやり直しはできません。三木さんによるとクエは夜行性が強く、昼間も捕食は行いますが殆ど移動せずごく周囲の餌しか口にしないとの事です。しかも漁のイメージとしては、クエは動く餌に強い関心を示すため餌がクエの眼の前に落ちる瞬間に、釣れるか否かの勝負は八割方決まります。つまり80m下のクエの棲む洞にピンポイントで釣り餌を落とすことがこの漁の必須項目となるのです。
クエの棲むであろう巣穴は熟練の専門漁師が魚群探知機で見れば、ほぼ推測できるようですが、潮が速い漁場ではそれを計算通りに行うことは、いかに熟練漁師であっても不可能です。クエは、潮の速い日は何日も漁がないというのは正にこの事実があるからに他なりません。なんと繊細且つ、熟練の技を要する漁でしょうか!

【延縄仕掛け、1鉢の構造】
釣針はメジカの吻(口の先端に刺す)。海中投入後の水の抵抗を軽減し仕掛けが絡まない工夫をしています
クエ延縄漁の手順
先ず浮子(アバ)となる大きな発泡スチロールを投入します。浮力は30kgの重さにも耐えるくらいの大きなもの、図の(A)。
その直下に6kgほどの沈子(イワ:B)を直結、形状は漁礁での漁に船を固定する碇と同じで、万一、沈子が漁礁に引掛かかってもウインチで強く引張ると、縦綱(C)が切れない強度があれば碇先端が伸び外れる仕掛けです。
沈子を投入した後は、縦縄から横に伸びる幹縄(D)に暖簾状に同じ長さに吊り下げた枝縄(E)の先にあるネムリ形状の針(F)に餌となるソウダカツオ(メジカ)の切り身を刺し、幹縄の沈んでいくしもり具合を見ながら枝縄の針がもつれないように手際よく絶妙のタイミングで餌のついた針を連続して投入していきます。一鉢全ての針を投入した最後尾に投入時と同じ、浮子と沈子を投入し延縄を固定します。三木さん親子の延縄は、幹縄の長さは約700m、枝縄は水に強い繊維を編んだ“枝もと”3mとナイロンの“ちもと”(釣針の括りめとその付近)1.5mの先に1鉢合計で66本の針が付いており、針と針との間隔は約10mです。
一度の漁で5鉢の仕掛けを投入。餌の付いた針の本数は330本となります。
ちなみにナイロンの号数は120号
通常私たちが、大物釣りに使うナイロンハリスは鯛釣りで5号、ブリ釣りで8号、鰹釣りで12号程度、120号のハリスは300kgのマグロの一本釣りにも耐えうる強度です。
約3時間をかけて、5鉢の延縄を投入終了しAM9:00、船上で朝食をとります。
クエの漁場とする海面には所狭しと、延縄の浮子が浮かんでおり不思議な光景です。
AM9:30延縄を投入した順番に仕掛けを回収していきます。
クエは仕掛けを長く放置しても釣果が上がるものではないようで、返って今釣れている魚にダメージがかかる為、投入した仕掛けは他の延縄よりは早めに回収します。
この仕掛けで釣れる魚は、本日の目的であるクエの他、高知名物のウツボ・カンパチ、サワラ、シイラ等の青物、ハタの種類ではクエ(真クエ)の他、マハタ(マスグエ)、ユカタハタ、オオモンハタ、底物のヒラメも釣れます。
延縄仕掛けの巻上げは、船首部分(へサキ)でおこないます。親父さんは、ウインチのローラーに幹縄を巻きつけ動力で仕掛けを巻き上げ、息子さんは傍らで仕掛けの上がり具合(角度)を見ながら船首操船機で舵を取る。
実際にクエが上がってくる瞬間は、まるで仕掛けを回収する側の海面一面が白く輝き、幹縄の張り具合よりも目視で釣れていることが確認できます。船釣りのご経験があれば、魚が海中から上がってくる瞬間は光が魚の鱗に反射した光沢が波に乱反射して実際の魚の大きさよりかなり太く見えることをご存知と思います。
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